元中国在住サラリーマンの徒然なる日々

かつて中国に数年間住んでいた日本人サラリーマンが綴る雑食系中国ブログ。ご連絡はTwitter(https://twitter.com/superflyer2015)経由でお願いします。

これからのトレンドは中国留学? 中国の高等教育機関(大学・大学院)の特徴と今後の展望。

f:id:superflyer2015:20190511175418j:plain


今回は中国の教育事情について、特に科学技術分野の高等教育(大学・大学院)に着目してご紹介してみたいと思います。

 

躍進する中国の大学


現代は「科学技術力」で国力が測られると言ってもある意味間違いではない時代だと私は考えていますが、最近のニュースによると、科学技術分野の論文数で中国はアメリカとほぼ同水準に並んだそうです。これはつまり、中国の理系学術界が世界トップクラスに躍進したことを意味します。ちなみに、日本の論文数は年々低下の一途を辿っていますから、もはや競争相手ですらありません。他の主要国に関しても、イギリスは大学教員の給与水準が低く優秀な学者はアメリカに移る傾向がありますし、ドイツは大学教員のポスト数を絞って高い待遇を維持しているため、全体の規模はそこまで大きくありません。フランスは近年あまり経済の調子が良くなく、研究費が大きくカットされる傾向にあります。

 

アメリカの研究者も近年は研究費の獲得が以前よりも難しくなった、という話は耳にしますが、それでもやはり全体の規模が依然非常に大きいですし、産学間の連携がよく取れていて民間企業所属の学者が多い点も強みです。アメリカと言えば「軍事力」ですが、科学技術はそれに直結しますから、例年莫大な額の予算がついています。

 

中国がなぜ躍進したかと言うと、細かい話は後述しますが、やはり政府が科学技術分野の重要性をよく認識し、徹底的に予算をつけたという点が決め手かと思われます。学術分野の人材は当然ながら中国人であっても英語で仕事をしていますから、十分な待遇でなければ皆アメリカに出て行ってしまうわけです。経済の発展に伴って国家予算が急速に拡大していき、その結果、優秀な国際人材を国内に留めることができるようになったわけです。

 

中国のエリートたち


ここからは、中国に関してもう少し突っ込んでご紹介したいと思います。

 

まず、中国社会というのは日本とは比べものにならないくらいの格差社会でして、どの「階層」で生きるかによって生活水準は非常に大きく変化します。

 

中国社会におけるいわゆる「エリート」というのは、大金持ちの経営者ではなく、基本的には「公的機関(教育機関を含む)のお偉いさん」ということになるわけですが、そういったポストに就くには学歴も非常に重視されます。日本社会であれば、東京大学を出てさえいればそれで十分なのかもしれませんが、中国ではそれではエリートにはなれません。大学院まで出ていて当たり前ですし、習近平氏や政府の要人などを見てみるとよく分かるわけですが、博士号を取得している人材が多いのも特長です。

 

それではここで、中国人エリート人材の一生というものを簡単にご紹介したいと思います。

 

中国では、子供をエリートに育てようと思った場合、親はまず教育コストに関して覚悟を決める必要があります。本当にものすごくお金がかかるのです。

 

一人っ子政策はすでに終了していて現在子供は二人まで作れますが、あえて一人に抑えるケースが多いです。教育に非常にお金がかかるからです。

 

子供は未就学児のうちから様々な習い事を経験します。特に英語教育は必須。

 

小学生になると、習い事で完全に平日の予定が埋まります。英語教室、数学専門の塾、ピアノ教室、水泳教室あたりがメジャーのようです。その他に、年に数回、外国での研修プログラムに参加します。アメリカに1週間程度の滞在で70万円くらいかかると聞いたことがあります。小学生の高学年くらいになると英語はかなり喋れます。そんな習い事中心の忙しい生活が中学校くらいまで続きます。

 

高校選びですが、例えば北京であればかなり厳格な序列があるようで、やはり親としてはいい高校に入学させたいわけです。さらに、通学で貴重な時間を消費してはもったいないので、入学予定の高校の近くに子供を一人暮らしさせるためのマンションを購入する人も少なくないのだとか。北京の不動産は恐ろしく高いためファミリー向け物件の購入は現実的ではなく、私の知り合いは狭いワンルールを何とか頑張って3,000万円ほどで購入したと言っていました。

 

大学受験は熾烈です。北京大学もしくは清華大学に入学するため、皆死に物狂いで勉強します。

 

大学に入学した後も学業はもちろん忙しいわけですが、それでも、本人は一旦一息つく時間はできるようです。この辺りからは、恋人探しが重要になります。中国では、ある程度の年齢で独身だと問題がある人物だと見られます。それに、子供を作り子孫を残すことは非常に重要視されますから、早い段階でパートナーを確保することが肝心です。また、教育レベルや家柄もある程度近い水準であることが望ましいと考えられているため、在学中は好機と言えます。なお、学部生は基本的に寮生活であり、4人部屋が一般的であるため、家に恋人を連れ込むことはできません。ですから、キャンパス内のベンチや付近の公園のベンチにはカップルだらけ。彼女を膝の上に乗せておしゃべりを楽しんだり、抱き合って長い時間キスをしたりと、日本よりも欧米諸国のカップルに近い濃厚な恋愛の姿がそこにはあります。

 

学部生時代の後半に突入すると、大学院の選定をすることになります。これに関しては専門分野に依るため様々ですが、指導教官のアドバイスを受けながら行き先を検討することになります。かつてはアメリカのトップ大学の大学院に進学することが多かったようですが、現在はかなり多様化しており、中国国内にも優れた教員が多いため、国内に留まる学生も増えているようです。コースも様々で、日本の大学院と同じように修士課程もありますし、分野にもよりますが、最近では5年一貫性の博士課程というのもあるそうです。中国では修士過程の標準修業年限は3年ですから、博士号を取得したい場合は後者を選んだ方が早く取得できるそうです。ただその代わり、中途で退学した場合には修士号を得られないリスクがあるという話を聞いたことがあります。なお、中国では大学院生のことを「研究生」と呼びます。AKBの話ではありません。

 

学生時代に親から仕送りをしてもらう人は多いようですが、中国の大学はそもそも学費は非常に安いですし、寮費も月数千円程度だそうで、あまりお金はかからないようです。土日も勉強や研究に励む学生が多いため、そもそもお金を使う機会があまりないのだとか。ちなみに、大学院生であれば在学中は給料がもらえます。理工系であれば、修士課程で月3,000元(約48,000円)、博士課程で月4,000元(約64,000円)程度なのだとか。ただ、近年中国の物価は上がってきているため、某大学では支給額が月8,000元(約128,000円)に引き上げられたという話を最近耳にしました。日本において大学院生は「学生」ですが、中国では大学院生は「若手研究者」ですから、給料を支払って雇うという形を取っているのです。

 

修士にせよ博士にせよ、大学院を出た後はもちろん就職です。ここから先は様々な進路がありますから個別の例には触れませんが、やはり厳しい競争は続きます。民間企業で働くにせよ、学術の世界に残るにせよ、厳格な評価制度が存在しますから怠けている暇はありません。

 

社会人になってすぐに結婚し、早い段階で子供を作る人も多いのですが、子供の面倒はベビーシッターがみますから、女性も基本的には一生働きエリート街道を歩むのが一般的です。

 

女性についてもう少し書いておくと、中国のエリート女性は基本的に家事は一切せず、メイドを数人雇い、自身は仕事に専念し、空いた時間は極力子供とのコミュニケーションに充てようとします。彼女たちは基本的に、「誰でもできる仕事」はしようとはしませんし、時間がお金で買えるのであれば積極的に買おうとします。「メイドを雇う」なんて言うと、日本人からしたらかなりの富豪に思えるかもしれませんが、北京では一般的な話だそうです。それだけ社会の階層がはっきりと分かれているということなのだと思います。

 

中国の高等教育機関


さて、ここで話を再び高等教育機関に戻したいと思います。近年アメリカとの熾烈な競争を続けている中国ですが、もちろん武力で争う時代ではありませんから、「経済戦争」がその形態となります。

 

現代の世においては、経済の要はもちろん科学技術。そして、科学技術分野の発展を担っているのはもちろん大学です。中国政府はこのことを非常によく認識していますから、科学技術分野における優秀な人材には徹底的に投資をしています。

 

具体的な方法ですが、政府主導の様々な補助金プログラムが存在しており、研究者はそれに自ら応募して予算を獲得し、そのお金で自らの研究グループを組織して研究活動に勤しむ形になっています。日本にも似たようなプログラムがないわけではありませんが、規模が極端に異なります。

 

そのような潤沢な予算のおかげで中国の大学教員は自分の裁量で適宜若手研究者を有期で雇うことができるため、研究が捗るのです。日本の大学であれば、例えば東大の教授であってもそのような予算は持っていないのが一般的です。そもそも1年あたり50万円〜100万円程度の予算しか持っていない教員が非常に多いため、人を雇うことなどできないのです。

 

そんなわけで、中国の大学教員の研究環境は恵まれてはいるのですが、実は大学の先生であっても「任期」があるケースが多いです。これは大学やポストによって大きく異なる話なので一概には言えませんが、待遇の良いトップ大学ほど、教員に厳しいノルマを課しています。例えば、5年ごとに任期更新の審査があり、パフォーマンスが悪ければ簡単にクビになるそうです。

 

詳しい人に話を聞いたことがあるのですが、少し前までは中国の大学も日本の大学と同じように、教員は「終身雇用」だったそうです。ただ、その結果、授業だけ真面目に行い、研究はあまり頑張らない教員が多かったため、やはりノルマは必要だということになったようです。これにより、中国の「研究力」は飛躍的に伸びました。バリバリ研究に勤しむ教員の下で育った学生は優秀な研究者に育ちますから、国全体の科学技術力が継続的に伸びるのです。一方、日本は相変わらず終身雇用のままですから、授業以外の時間を研究室でダラダラ過ごしている教員が多く、年々研究力は落ち、外国人留学生からも敬遠される国になってしまったのです。そんな学術界の現状を悲観し、日本から中国に移ってきた優秀な学者たちが中国の発展に寄与している現状を見ていると、「亡国日本」という言葉が頭に浮かびます。

 

とまあそんなわけで、中国の高等教育界には依然政府からジャブジャブ予算が注がれており、研究者たちはその分強烈なプレッシャーの中で研究に打ち込んでいます。そういった学術界の最前線でバリバリ研究している教員の授業や指導を受けた学生たちが、次の世代を担うという健全な循環が成立しているのです。私は無学なただのサラリーマンですから、遠く離れた場所から眺めているだけですが、本当に合理的な社会だなと思います。

 

これからのトレンドは中国留学?


私は昭和人間ですが、一昔前なら「中国留学」なんて聞いたこともありませんでしたし、冗談にすらならないような話でした。海外留学と言えば、やはりアメリカ、イギリス、オーストラリアでした。

 

しかしながら、学術界の勢力図はこの10年間であまりにも大きく変化しました。冒頭で書きましたが、現在は中国とアメリカがしのぎを削っているだけで、他の国々は日本も含めかなり大きく突き放されています。

 

ですから、理系に限れば、本気で学問に身を投じたい人が行くべき場所は中国かアメリカで間違いありません。問題は言語関係の障壁です。我々日本人は中高と6年間に渡り英語を学んでいるわけで、英語に関する不自由はないわけですが、中国語に関する知識は基本的には皆無です。中国でも専門分野の勉強や研究はもちろん英語で行うことになりますが、日常生活においてやはりある程度は中国語が必要になります。しかしながら、中国語の学習にもやはりそれなりに手間はかかるわけで、これを「チャンス」と捉えるか、それとも「面倒」と捉えるか、それ次第なのではないでしょうか。

 

ちなみに、数年前にアメリカ留学を終えて帰国した親戚の女の子は、「白人女子のアジア人蔑視はあまりにも陰湿。隣にブスを置いて自分を引き立てるやり方と全く一緒。」とまあやたらと意味深なことを言っていましたから、色々とあるみたいですね。中国に関しても、実際に住めば戸惑うこともあるのかもしれませんし。

 

ついでにもう一つコメントしておきますが、国を問わず、どこの大学にも「得意分野」というのが存在します。ですから、留学する際には大学名だけで選ぶのではなく、自分の学びたいことや研究したい内容に合った留学先の選定が重要になります。更には、大学院に留学する場合であれば、指導教官を慎重に選ぶことも極めて重要です。世界的な権威に師事したはいいけれど、既に年寄りで学者としては腐っていたなんてこともありますしね。

 

とまあそんなこんなで、中国語に関する障壁は若干あるものの、中国留学をする日本人は今度確実に増えるかと思います。当ブログの読者の中にあまり若い方はいらっしゃらないのかもしれませんが、例えば、あなた自身でなくとも、将来あなたの子供が留学を検討する際には候補に入る可能性が高いのではないでしょうか。科学技術分野の論文数で言ったら、5年後くらいにはほぼ間違いなく中国がアメリカを抜いているはずです。

 

あとがき


今回は少々大き過ぎるテーマを取り扱ってしまいましたから、私が多少知識のある分野では、、、という本当に狭い領域に限った内容の記事になってしまいました。ただ、「科学技術」と「高等教育機関」というのは切っても切れない関係ですし、こういう時代だからこそ、大学や理系研究者の存在意義が一層光るのだと私は考えています。

 

「国家繁栄」などと言うとちょっと大袈裟かもしれませんが、国を維持するためには産業が必要であり、現代の世ではその鍵を握るのが科学技術であることは疑いようがありません。その分野で現在アメリカと覇権争いをしているのが中国なわけで、当該分野で衰退の一途を辿っている日本には見習うべき部分が多いのではないでしょうか。

 

今回は理系一辺倒の記事になってしまい本当に恐縮なのですが、兎にも角にも、いわゆるサイエンスやテクノロジーの世界で学びたい、研究したい、そんなことを考えている方にとっては、中国は留学先の候補になるのではないでしょうか。頑張ったら頑張っただけしっかりとその努力が評価される国ですし、そういったシビアな評価制度の中でバリバリ研究をしている真に現役な教員たちが皆さんの訪れを待っているはずです。